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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)546号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人今福浅次郎、同佐藤安哉の上告理由第一点及び同鍛治利一の第五点ないし第八点について。

原判決は、論旨の指摘する、本件賃貸借の成立に至る経緯、その契約条項、地上建物の使用目的、その規模構造等のほか賃料改定の有無等の事情について、これを判示のように認定し、これ等の点をも綜合考察の上、本件賃借権を借地法九条にいわゆる一時使用のために設定されたものと判断したのであることは原判文上明らかである。そして原判決の挙示の証拠によれば、前記判示事実の認定は十分可能であり、またこの判示事実に基いてなした右の判断は結局正当であると認められる。(なお、第一点所論の調停申立の趣旨内容、本件地上に建築された建物〔増改築前の旧建物〕についての行政官庁に対する建築認可申請の形式内容をもつてしても右の判断は左右されない。また原審が第六点所論のように本件賃借権をその存続期間のみから一時使用の為設定したものと判断したものでないことは原判文により明らかであり、原審の認定にかかる前記諸事情の存する本件のような場合、なお所論(第六点ないし第八点)の如く、賃貸人が賃借権の存続期間を短期間と定めるに至つた具体的理由を明示し、賃借人においてこれを承認したことは、「一時使用」の判断のために必しも常に必要不可欠の事情とは認められない。)

同第二点について。

所論の判示事実は、原審挙示の証拠により認定することができる。所論の挙示する乙各号証に照らしても、右の認定を経験則に違背するものとはいえない。論旨は結局原審の証拠の取捨を争い事実認定を非難するにとどまる。

同第三点について。

所論の判示事実も、原審挙示の証拠によりこれを認定することができる。(被上告人釈放の時期については、仮に上告人の主張のとおりとしても、判示増改築当時被上告人が在監中であつたことは明らかである。なお、所論福岡市長からの移転命令のあつた事実は、前示認定の妨げとなるものではないし、また所論賃料受領の事実があつても、それはすべて本件賃貸期間内のことであるから、賃貸期間満了に基く明渡請求を認容した原審の判断に影響を及ぼすものではない。)

同第四点について。

所論前段については第一点説示のとおりである。所論後段について、原判決挙示の検証の結果、甲三号証の三、同四、甲四号証の一、同五を検討してみると、本件係争地上の建物が原判決添付の目録に表示のとおりの建物であることを認定することができる。原審は右の認定に基いて右目録表示の建物の収去並に本件宅地の明渡を上告人に命じたのであつて、右の表示に、上告人の給付すべき目的物の同一性、その範囲ないし強制執行の対象物としての特定に何等欠けるところはなく、所論のような違法は認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

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